伝統的な祭りをどう残していくか~「沢田ろうそくまつり」復活に向けた3つの取り組み
2025年2月12日(水)、450年以上前から伝わる沢田ろうそくまつりは5年ぶりに開催することになりました。
なぜこれまで中止していたのかという理由や開催に向けた具体的な取り組みを紹介していきます。
◆今まで中止していた理由
中止していた一番大きな理由は、新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響です。不特定多数の人が集まる祭りは開催を自粛せざるをえない状況にありました。加えて、自粛しているなかで、さまざまな課題が出てきてしまいました。その中で3つの課題について触れます。
・祭りの担い手が高齢化している
・祭りのノウハウをどう継承していくか
・中止が続いたことによって、祭りへの関心が低くなってきている
このような課題から、コロナによる制限が緩和されたあとでも、中止が余儀なくされました。幕を下ろす祭りが全国的にも多いなか、諦めムードになったこともありました。
しかし、それでも諦めず、「なんとか開催したい!」「歴史をつなぎたい!」「後世に継承したい!」と想いを持った人が集まり、解決策を2年間かけて考え、活動をしてきました。その結果、5年ぶりに祭りを行うことができるようになったわけです。
▲菅江真澄の紀行文『遊覧記』にも沢田ろうそくまつりについての記述があります
(出典:国立公文書館デジタルアーカイブ)
◆「祭りの担い手の高齢化」に対する取り組み
祭りを担う実行委員会のメンバーが高齢になり、今までできていたことができなくなってきました。例えば、参拝客の休憩用テントは近隣の学校や公民館から借用し、設営し、返却してきました。そのテントが重い上に、冬季の運搬、設営はかなりの重労働です。高齢なメンバーでは困難になっていました。
そこで、テントやパイプ椅子などは全てリースすることにし、運搬、設営、撤去作業全てを業者に委託することになりました。これだけでかなりの労力軽減です。
▲以前は、実行委員がテントの借用、運搬、設営、撤去、返却を行なっていました
また、沢田神明宮を管理する沢田町会は、6戸18人が住むのみとなっています。多くが高齢者で町内会の維持すらままならない状況になっています。沢田町会としても、今まで通りにまつりを行うのが難しくなってきました。
沢田ろうそくまつりは沢田神明宮の大祭の前夜祭です。町内会にとって大事なのは大祭。前夜祭で疲弊してしまっては、元も子もないわけです。
そのため、岩屋堂のなかの岩肌にろうそくを立て、火を奉納して五穀豊穣や家内安全を祈願するという本質は固守しながらも、今いる人で、できる範囲のことをするという方針のもと、祭りをダウンサイジングする決断をしました。
例えば、祭りを華やかにする幾何学模様のキャンドル演出を簡素化したり、片付けのことも考え開催時間を30分短縮したりすることにしました。ちょっとした規模縮小です。
▲雪深い斜面に模様をつけるのはなかなかにハードです…
◆「祭りのノウハウの継承」に対する取り組み
祭りのノウハウの継承も課題となっていました。暗黙の了解で、「これは〇〇さんがやるっきゃ(津軽弁)」というように役割が固定化し、その当人しか、いつ・どこで・だれが・どのように・なにをするのかが分からなくなっていました。いわゆる属人化です。
「〇〇さんしか知らない」「〇〇さんがいないと分からない」というような状態から脱却するために、事前準備から祭り当日の運営、事後の片付けまでに行うこと全てを言語化し、マニュアルとしてまとめました。マニュアルができたことによって、全体を通してのプロセスを実行委員で共有できるようになりました。
▲マニュアルを作ったことによって、脱・属人化が進みました
マニュアルがあることによって、担い手が変わろうが再現性高くまつりを開催できるようになったと思いますし、担い手育成も容易になりました。
◆「中止が続いたことによって、祭りへの関心が低くなってきている」ことへの取り組み
何年も中止してきたことによって、沢田ろうそくまつりへの関心が低くなってしまったという課題意識がありました。再開にあたり、地区内外問わず幅広い年齢層に関心を持ってもらうための働きかけを行いました。
1つ目は、弘前市立相馬小学校第6学年の「総合的な学習の時間」における協働です。
出前授業で一方的に教えるだけでなく、会場となる沢田神明宮でのフィールドワークを行ったり、まつりが直面している課題に対する解決策を協働的に考えたりする単元でコラボしました。子どもたちから出た意見や発想は、今年度のまつりに反映させています。
▲沢田神明宮でのフィールドワーク
▲子どもたちと一緒にまつりを盛り上げるアイディアを考えました
「ろうそくでアートを作りたい!」という子どもたちの意見を生かし、平和を祈る「ピースキャンドル」を作りました。祭りのテーマが「平穏」なので、テーマとも合致しています。また、弘前城雪燈籠まつりで使用済みとなり、廃棄するはずのキャンドルを再利用したので、SDGs的にもよい取り組みとなりました。
▲子どもたちが作った「ピースキャンドル」
2つ目は、弘前市が主催する人と人がつながるまちづくりトーク「ぷらっと」への参加です。実行委員会のメンバーが講師となり、沢田ろうそくまつりについて話しました。
▲まちづくりトークイベント「ぷらっと」での講演
沢田神明宮の宮司・米沢智子さんも一般参加し、祭りに寄せる思いを語っていました。米沢宮司は、沢田神明宮の荘厳な雰囲気、大きな磐座(いわくら)に鎮まっているようなシチュエーションを守っていきたいそうです。沢田ろうそくまつりは単なるキャンドルイベントではなく、信仰のうえに成り立つ祭りであることを大切にするとともに、祭りを通して火の神秘性を伝えていきたいと語っていました。
▲沢田神明宮・宮司 米沢智子さん
参加者に感想を聞くと、
「今まで行ったことなかったけど、次は行ってみたい」
「沢田ろうそくまつりがあったとは知らなかった、ボランティアでいいから参加したい」と興味をもってくれたようでした。
地道にですが、少しずつPR活動を行っています。
◆まとめ
2025年2月12日(水)、5年ぶりに開催される沢田ろうそくまつりの魅力を知ってもらうためにも、当日は多くの人に足を運んでほしいと思っています。興味のある方はぜひ行ってみてください!
最後に、沢田ろうそくまつりは沢田神明宮の大祭の前夜祭なので、大々的な観光コンテンツではありません。観光イベントではないので、十分な駐車スペースがなかったり、除雪が不十分であったりすることがあります。山間部の素朴な祭りであることのご理解をいただいたうえで参拝してもらえるよう、付言しておきます。
※まつりの前日・当日準備にも参加してほしいです。興味のある方はひろさきボランティアセンターで申し込みください。
【参考】
国立公文書館デジタルアーカイブ
弘前市相馬地区公式ホームページ
【協力】
米沢智子さん(沢田神明宮・宮司)
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