地名で多く使われている漢字は?由来についても考えてみた
皆さんは身近に使う地名について、考えたことがありませんか?
「『町』のつく地名が多い」「東西南北、どの漢字が地名に多いんだろう」など、私は気になってしまったので調べてみました。
◆弘前の地名に使われている漢字を調査
私が住む青森県弘前市の地名は、日本郵便の郵便番号データダウンロードを参照しました(2024年8月31日時点)。大字(おおあざ)だけを抜粋。大字というのは市町村の区画名の一つで、江戸時代の村を継承した範囲・地名のことです。最近では使われなくなりつつあるので、馴染みのない人も多いのではないでしょうか。
その結果が下記です。弘前にお住まいの方は、ぜひ予想してみてください。
どうでしたか?私は「町」のつく地名の多さに驚きました。また、「田」のつく地名も多いですが、田んぼのない地域もあるのになぜなのだろう、と気になりました。ちなみに記事の最後にどのように集計したかをまとめていますので、どうぞ最後までお付き合いください。
◆使われる漢字に違いはあるのか?
全国と比べてみると何かおもしろいことが見えてくるかもしれません。弘前に住所として残る地名(大字のみ)と、全国の市区町村で多く使用される漢字を比較してみました! 弘前の地名には、全国と違う特徴があるのでしょうか? 市区町村名のデータは、総務省の全国地方公共団体コードから抜粋しました(2024年1月1日時点)。なお、市区町村名の区については、東京都の特別区のみ集計しています。
以下が、弘前の大字と全国の市区町村を比較した結果です。上位11番目まで記載します。
▲比較結果。延べ文字数は、弘前が760文字、全国が3961文字でした。
「田」「野」「大」「川」など、全国と共通して多く使われている漢字もありますが、弘前には「町」「沢」が全国と比較して多いことが分かります。特に、「町」が760文字中122個(約16パーセント) と、圧倒的に多いです。
なぜ、弘前の大字名には「町」や「沢」が多く入っているのでしょうか?
◆漢字から地名の由来を考えよう。藩政時代から残る地名に多い「町」
地名の中には、その土地の歴史や地形、住んだ人の職業が現れているものもあります。地域ごとに、地名に使われる漢字も異なる傾向があります。
弘前は約400年前、弘前城を中心として栄えた城下町でした。藩政時代から現在まで残っている地名は、全て「○○町」というものです。
松田弘洲著「津軽地名の語源 青森地名双書①」と弘前市教育委員会が各地に設置している標柱を参考に、藩政時代から残る地名の由来をいくつか紹介してみます。
駒越町(こまごしまち)…舟の渡し場があることからつけられた地名です。馬を乗せた舟か、もしくは将棋の駒のような形をした舟があったのかもしれません。近世に入ってからは、駒形の舟で川を越えたものらしいです。弘前城下から藩祖為信の居城であった大浦城跡や岩木山神社に続く通りで、駒越川 (現 岩木川)には橋がなく、「駒越渡し」と呼ばれた渡し場があったようです。
禰宜町(ねぎまち)…神職の「禰宜」という役職からつけられた地名です。字義通り、宮司(ぐうじ)の下の地位にある神職の「禰宜の町」の意味のようです。弘前城築城とともに町割りが行なわれ、弘前総鎮守(そうちんじゅ)八幡宮(はちまんぐう)の神主(禰宜)と、別当最勝院の僧侶たちが多く住んだことから、町名になったといわれています。
白銀町(しろがねちょう)…白銀町は、弘前城の城閣のカドに沿っています。白銀は、城曲(しろがね)で「城の曲がり角に沿った町」の意。弘前城築城当初は片原町と呼ばれていたようで、1650(慶安3)年の町割り帳では、既に白銀町と改名しています。著名な鍔(つば)職人である正阿弥(しょうあみ)家をはじめ、金銀細工の職人が多く居住していたことから名付けられたとも言われています。現在上白銀町と下白銀町に分かれています。城の曲がり角が由来なのか、刀の鍔職人が由来なのか、謎が残ります。
◆湿地帯があることから付けられた「沢」
「沢」は、湿地帯を意味する漢字です。「沢」のつく大字は、全て河川やため池が域内、もしくは周囲にある地名です。松田弘洲著「津軽地名の語源 青森地名双書①」から、「沢」のつく地名の由来をいくつか紹介してみます。
貝沢(かいざわ)…貝沢は、すぐ近くに大森勝山遺跡のある地区です。貝塚がたくさん発見されたことから、貝沢は、字義通り「貝のある沢」。貝塚が由来となったのかもしれません。
十面沢(とつらざわ)…十面沢は、北部が廻堰(まわりぜき)大溜池と接している地区です。綴蔓沢(とつらざわ)で、フジ・ツタ・アケビなど、物を「綴ずる蔓(つる)のある沢」の意味のようで、ツル植物のある沢があったのでしょうか。
百沢(ひゃくざわ)…百沢は、岩木山のふもとに位置する地区です。字義通りの「百の沢」ではなく、南部地方に冷水(ひやみず)・寒水(ひやみず)・冷水沢(ひやみずさわ)という地名があるから、百沢は「冷沢(ひやざわ)」から転じたと言われています。「冷たい」は津軽弁で「ひゃっこい(しゃっこい)」というため、「冷たい沢」から転じたという説に信憑性はありそうです。
◆数百年も前から呼び続けられる地名の不思議
弘前には、特有の由来で付けられた地名が多くあると分かりました。音が先にあり、漢字が後で当てられた地名など、漢字の意味と由来が一致しないものも多くあります。
今回ご紹介した地名の由来は、あくまでも説の1つとして、お楽しみいただければと思います。身近にある地名に目を向けると、面白い発見があるかもしれません。
◆私が地名を集計した方法
集計に用いたツールは、Googleスプレッドシートです。以下の手順で集計しました。
①SPLIT関数とREGEXREPLACE関数を使い、文字列を分割します。1セルに1文字が入るようにします。
②COUNTA関数を使い、分割した文字データが列ごとにいくつあるかを数えます。
③FLATTEN関数を使い、複数列の情報を1列にまとめて記載します。
④UNIQUE関数を使い、②で1列に記載した文字データの重複を削除します。
⑤COUNTIF関数を使い、「1列にまとめた③の文字データ」の中に「重複を削除した④の文字」がいくつあるかを1文字ずつカウントします。
⑥SORT関数を使い、出現回数が多い順に③と④で作成した列を並べ替えます。
【参考資料・文献】
・松田弘洲著 「津軽地名の語源 青森地名双書①」 あすなろ舎
・日本郵便 郵便番号データダウンロード 読み仮名データの促音・拗音を小書きで表記するもの(zip形式) 青森県(2024年9月7日閲覧)
・総務省 全国地方公共団体コード 全国地方公共団体コード (2024年9月7日閲覧)
・弘前市 古都の町名一覧(2024年9月7日閲覧)
・くろんの部屋 都道府県・市区町村名で最頻出漢字を調べる【スプレッドシート】(2024年9月7日閲覧)
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