弘前・相馬地区ミステリー第4弾~神を怒らせて雨を降らせていた⁉~
地域おこし協力隊の活動をするなかで、地元の人から「相馬村のとき山奥までいって雨乞(あまご)いしていた歴史がある」という情報提供と、「雨乞いを今の若い人にも伝えたい」という相談を受けました。個人的な興味が湧いた上、ぜひ文字にして残したいということで詳しく調べてみました。
◆村をあげて雨乞いをしていた⁉
かつて相馬地区(旧相馬村)では、地域をあげて雨乞いをしていたという記録が残っています。
津軽地方の民俗を研究し、「岩木山の山岳信仰」などの著作で知られる小舘衷三氏によると
「相馬川の支流である作沢川上流の陣場沼の雨乞いは珍しいものである。陣場沼は最初廃山になった舟打鉱山からさらに6キロも奥の山頂にある小さいひょうたん形をした沼(…中略…)に雨乞いに行くときは全村をあげて、村長を先頭にして行った」そうです。
また、情報提供してくれた嶋口昭男さんによると、
「1900年代初頭、私の母が村長と一緒に雨乞いに行っていた」そうです。
ほかにも、何人かの地域住民が同様のことを言うことから、相馬地区でかつて雨乞いが行われていたのは事実であるようです。
▲相馬地区と西目屋村の境界線上にある「陣場岳」周辺に雨乞いをしていた「陣場沼」があると思われる
◆そもそも雨乞いとは
雨乞いとは、雨がなく日照りが続き、農作物が被害を受けるようになると、氏神や水神に降雨の祈りをささげて祈念することです。洋の東西を問わず、古くから雨乞いは行われていました。日本では、推古天皇の時代にある雨乞いの記録がもっとも古いが、このような行事は原始時代からあったとみられています。
日本の雨乞いには5種類の類型があります。
・山頂で火を燃やしながら、鉦(かね)や太鼓をたたき大騒ぎをする
→「山頂で火を焚く型」
・唄や踊りで神意を慰め神に降雨を祈る
→「踊って雨を乞う型」
・ふだんは神聖視されているものを冒涜(ぼうとく)して神を怒らせ、強制的に雨を降らせようとする
→「タブーを犯して神を怒らせ、降雨を強いて求める型」
・山へも登らず火も焚かずに、神社に参籠(さんろう)して夜を徹して神に祈願する
→「神社に参籠し降雨を祈願する型」
・神社や滝つぼなどの聖地から霊験ある神水をもらってきて耕地に撒く
→「水を撒く型」
ほかにも局地的には奇抜な雨乞いがみられるものの、上記5種類の類型が変形、結合したとみられるものも多く、この5つの型が日本の雨乞いを代表するものとみられています。
▲熊本県玉名市岱明町大野下地区に江戸時代から伝わるとされる伝統行事「大野下雨乞い奴踊り」(提供:玉名市教育委員会)「踊って雨を乞う型」だと思われる
ちなみに相馬地区の雨乞いは、山奥にある陣場沼まで行き、沼を竿でかきまわしたそうなので、おそらく「タブーを犯して神を怒らせ、降雨を強いて求める型」であると思われます。
◆陣場沼を探せ
次に気になったのは陣場沼。「雨乞いをしていた陣場沼へGO!」
といきたいところでしたが、グーグルマップや地理院地図などに陣場沼の表記はなく、どこにあるのか正確な位置がわかりません。
そこで、もらった資料と文献の記述をもとに探してみることにしました。
ひとまず、陣場岳を目指します。
正直、これだけで探すのは難しそう…
地図を見ながら、車で行けそうなところ(舟打鉱山跡)まで行きました。
鉱山跡からは、作沢川沿いを歩いて陣場岳を目指します。
かつて林道だった名残がかろうじてありますが、所どころ土砂崩れしていたり、雑木が茂っていたりする、いわゆる酷道(こくどう)です。
人の気配がない深い森を感じながら歩きました。
▲弘前に残る美しい自然を感じられました
歩くこと2時間、距離にして約5キロ。目的地である陣場岳に到着しました。
陣場沼の探索開始です。山頂周辺にあるということでしたが、見当たりません。
地面がジメジメしていて 「沼っぽい」ところは数カ所ありましたが、祠(ほこら)があった形跡はなく、それが陣場沼だという確証をもてませんでした。
がんばって探してみましたが、結論、陣場沼を見つけることはできませんでした。
おそらく、落ち葉の堆積や土砂崩れなどによって沼は埋まってしまったのだと思います。
祠も風化してなくなってしまったのかもしれません。
◆感想
雨乞いをしていた陣場沼の探索を通して、
長くて険しい道を越え、深い森を抜けてまで雨乞いをしていた先人に対する畏敬(いけい)の念を覚えました。また、弘前の先人がどう自然と向き合あっていたのかもっと知りたいと思いました。
【参考文献】
『大日本百科事典ジャポニカ-1』小学館 1973年
鳴海恒男『相馬村史』津軽書房 1985年
小舘衷三『水神・竜神・十和田信仰』北方新社 1976年
【協力】
相馬町会 嶋口昭男さん
西目屋村地域おこし協力隊 山形祐介さん
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