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怪談を語り続けて10年!怪異究明集団「弘前乃怪」に迫る!

▲弘前市内を中心に怪談ライブを行っている弘前乃怪の3人

 

こんにちは!市民ライターの黒岩唯です。

突然ですが、皆さん、
怖い話はお好きですか…?

「怪談レストラン」や「トイレの花子さん」で育ったと言っても過言ではない私は、怖い話は昔から大好きです。弘前に怪談を語る人たちがいると聞くと居ても立っても居られず、これまでも何度かイベントに足を運んできました。

 

▲弘前乃怪10周年ライブのポスター

 

◆弘前乃怪10周年を記念したイベント「大怪談祀羅」

10月末、弘前市内にあるイベントスペース「スペースデネガ」で開催された、弘前乃怪10周年を記念した「大怪談祀羅(だいかいだんまつり) 怪談卍固め」は、全国から怪談師が集まる怪談イベントです。

 

▲弘前に集まった怪談師たち

 

参加したゲストは10人。怪談家ぁみさん、怪談DJ・響洋平さん、弘前出身の怪談作家・黒木あるじさん、作家・川奈まり子さん、オカルト愛好家・保志乃弓季さん、怪談師・匠平さん、俳優としても活動する怪談師・村上ロックさん、オカルト研究家・吉田悠軌さん、怪談家・住倉カオスさん、怪談愛好家・敬志さん。

怪談界の最前線を駆け抜ける10人のゲストは首都圏のイベントでも一堂に会する機会がなく、弘前に集結すること自体すごいことだとか。6時間にわたるステージでは、自身が体験した話や、東北の怪談話など、濃密な怪談話が繰り広げられました。

また、イベント中には、突然ライトが消えたり、誰か分からない影が見えたりするなど不可思議な現象が発生。観客からも驚く声が聞こえましたが、「怪奇現象は起こって当たり前」とゲストも楽しげな表情をすることが印象的でした。

 

▲大怪談祀羅(だいかいだんまつり) 怪談卍固めの様子

 

◆今年で活動10周年!
 弘前で活動する怪談好き集団「弘前乃怪(ひろさきのかい)」を取材

 

「大怪談祀羅」を主催した弘前乃怪は、弘前を拠点とし、怪談イベントの開催や怪談書籍の執筆を行い、今年で活動10周年。自身での実体験はもちろんのこと、実際に体験した人から取材したことを元に怪談に落とし込んでいくため、作り話は一切ない「実話怪談」であることが最大の特徴です。

これまでも、弘前市内のお寺や洋館、廃校、蔵、博物館などさまざまな場所で怪談イベントを開催してきた弘前乃怪。

今回は、メンバー3人にお集まりいただき、弘前乃怪ができたきっかけや、弘前の怪談について聞いていきたいと思います!

 

▲左から鉄爺さん・鶴乃大助さん、高田公太さん

 

● 弘前乃怪メンバー ●

・鉄爺[テツジイ]
弘前乃怪代表。インターネットラジオ「ねとらじ」の時代から怪談活動を始める。子どもの頃は楳図かずおの「へび女(1966年)」等を愛読、小学生の頃はラジオ番組「夜のミステリー」を愛聴して育つ。

・鶴乃大助[ツルノダイスケ]
怪談ロックンローラー、実話怪談作家。1973年から1997年まで四半世紀もの間放送されていた「あなたの知らない世界」を夏休みに必ず視聴するほど、子どもの頃から怖いもの好き。怖い体験を人に話したり教えてもらったりしているうち、本格的に怪談の世界に入っていく。著書に東北の怪談を蒐集した『奥羽怪談』シリーズ等がある。

・高田公太[タカダコウタ]
実話怪談を取材執筆する怪談作家。2022年出版の著書として『煙鳥怪奇録 机と海』、『実話奇彩 怪談散華』などがある。若い頃は作家・平山夢明(ひらやま ゆめあき)の実話怪談「「超」怖い話」にハマり、怪談好きに。30歳手前から文学賞のコンテストに応募するようになり、大会を主催する人の目に留まったことで作家デビューのきっかけをつかむ。

 

◆弘前乃怪が誕生したきっかけは
 120人が集まった怪談ライブだった

黒岩:まず、弘前乃怪が誕生したきっかけを教えてください。

鉄爺:2001年に誕生したインターネットラジオ「ねとらじ」で怪談を聞くようになったのが全ての始まりですね。それまで「怪談」っていうのはマニアックな世界だったんだけど、怪談がラジオで気軽に聞けるようになって、「これは面白いな」と。

鉄爺:2000年を過ぎて、ねとらじで怪談を話す人が少しずつ増えてきた頃、とある怪談師さんが観客を入れたライブを始めた。でもそういうのって東京や大阪がほとんどだったから、「青森県でも怪談ライブやってくれねえかなあ」っていつも思っていたの。それを怪談師の彼に会った時に話したら「あなたが主催でやればいいんじゃない?そしたらいくらでも行くよ」と言われた。そこで、その怪談師を青森県に誘致するため2012年に弘前乃怪実行委員会という名で団体を作った。でも名前が長いからみんなは弘怪、弘怪、って呼ぶの。だから自然と「弘前乃怪」という名前が定着していった。

 

▲最初は全てが手探りだったと語る鉄爺さん

 

黒岩:怪談ライブを開催するために設立したのが、後の「弘前乃怪」だったんですね。

鉄爺:そう。弘前乃怪が怪談ライブを開催したのはそれから1年後。場所は弘前市内にある金龍山 盛雲院。120人を超える人が来てくれた。

黒岩:初めての怪談ライブで120人!すごいですね。

鉄爺:怪談ライブが終わったあと、「もうこれ一回きりでいいかな」とも思ったんだけど、「青森県で100人規模のイベントができるってすごいんだよ。これで終わりにするのはもったいない。東京からも人を行かせるから、なんとか続けたほうがいい」と東京の怪談関係者に言われて。続けることになった。

黒岩:弘前乃怪を結成してから苦労もあったんですか?

鉄爺:最初は試行錯誤だったね。イベントを開催するってなると音響や照明とかをやってくれる業者も探さないといけないから、いろんな人に声かけたりして。最初は鶴さん(鶴乃大助さん)とか公太(高田公太さん)は加わってなかったから、東京とかからゲストを呼びながら年1で怪談イベントを開催していた。地道にやっていたのよ。年1のイベントを何回か繰り返していたあと 鶴さん、公太が加わった。

 

▲弘前乃怪メンバーに加わった鶴乃さん(左)と高田さん(右)

 

黒岩:鶴乃さんと高田さんは途中から加わったんですね。

鉄爺:最初の頃は東京とかから怪談師呼んだりしていたけど、地元の語り手が増えれば自分たちでも怪談イベントできるからね。

鶴乃:自分たちだけの怪談イベントをやりながら、怪談師や怪談作家をゲストとして呼んだイベントも開催する団体って全国的でも弘前乃怪ぐらいじゃないかな。


▲ゲストを招いての怪談ライブの様子

鉄爺:苦労と言えば、独自性をどうやって出すかは一時期すごく悩んだね。「去年と同じことをやる」っていうのはたしかに安全ではあるんだけど、それでいいのかって悩んだ時期があった。そんなとき、「うちの地区に古い蔵があるので何かできないですか?」とか「廃校があるので、そこ使えないですか?」と声がかかった。

黒岩:廃校でイベント!面白そうですね。

鉄爺:でも結構リスキーなのよ。人口が少ない田舎の地域だと、「怪談というジャンルもマイナーなのに、人が来るのだろうか?」って。でもやっぱり最後は「やってみないと分からない」って気持ちが大きかったね。

黒岩:開催するのにもお金が掛かりますもんね。

鉄爺:そう。場所代、人件費、ゲストへのギャラ。いろいろ払っていると、マイナスになる。だから、いかにしてギャラを捻出するかに頭を使ったね。知り合いのツテを使って保養所を使わせてもらったり。一回、自分のバイクを売って開催費用に充てたこともあったよ。(笑)

鶴乃:金の苦労はな、ずっとあるよな。仕事が忙しいときも弘前乃怪でいろいろやらないといけないからすごい大変。宿の手配やら新幹線のチケットやら。

鉄爺:好きだっていうベースがなかったらまあ無理だな。

 

▲これまでの苦労を微笑みながら語る鶴乃さん

 

鶴乃:でも最近ようやく認められてきた感じはするね。博物館でライブもできたし、怪談っていうジャンルも盛り上がってきているからね。

高田:ゆっくりだけどね。

鉄爺:ガッといきなり盛り上がらないほうがいいよな。

高田:ブームって終わる。長い目で見れば「根付く」のが一番いいよな。

 

怪談だけをやるんだったら、どこでもできる
 大切なのは「弘前乃怪だからこそできるイベント」

 

黒岩:やっていてよかったな、って思うのは、どんなときですか?

高田:イベントを開催した日が、いい1日だったときかなあ。お客さんの反応が良かったり、SNSで「すごいよかった」って書いてもらったときとか。

鶴乃:弘前でしかできないこともあるからね。会場をお寺にしたりとか、廃校でやったりとか。久渡寺でやったこともあるし。ここでねばできねえことがあるのよ。弘前だからこその付加価値というものは必ずある。ただ地方で怪談ライブやっているっていうだけじゃなくて、「弘前乃怪だからこそできるイベントを」っていうふうには考えているね。そこでお客さんに喜んでもらえたときはうれしい。

高田:「弘前乃怪」っていう言葉の中で重要なのは「怪」という言葉よりも「弘前」っていう言葉のほうが重要だったりするよね。怪談だけをやるんだったら、どこでもできるからね。

黒岩:弘前怪談の特徴とかあるんですか?

高田:岩木山の山岳信仰とか、寺院が並ぶ禅林街とか、ねぷたまつりの血みどろ絵とかは怪談話とつながっている部分も多いね。弘前って、普通に生活する中で、古いものと新しいものが混在している。みんなが、魂とかで、当たり前に受け入れている土壌が弘前にある。青森県内だと恐山があったりだとか、イタコ神様がいたりとか。

鉄爺:お盆のときに不思議なことがあってもさ、驚く人もいるけど「あ、魂っこきた」って受け取る人も多いんだよな。俺も昔あったんだけど、鳴るはずのない柱時計がボンって鳴ったのよ。そうしたときも「魂っこきたんだね」って。じいちゃん、ばあちゃんは特にそういう反応だね。それもある意味怪談なんだよな。

 

▲怖がらせるだけが怪談ではないと語る3人

 

黒岩:怪談好きの3人が思う、弘前の良さを教えてください。

高田:亡くなった人の魂を感じながら過ごせる場所。お寺もいっぱいあって、時の流れが分断されずにずっと続いている。古い武家屋敷とかも残っていたり、弘前公園もあの場所にずっと残っていたり。連綿と続く文化や歴史の潮流の中に自分たちがいるんだなって感じられる場所が弘前だね。

鶴乃:青森県は廃仏毀釈(はいぶつきしゃく/仏教寺院や仏像、巻物などを破棄して仏教を廃する現象)が激しく起こらなかった。あまり田舎過ぎず、メスが入りにくいところだったから、いろんなものがそのまんま残っている。人が信じてきた信仰とかでも、そのまんま残っていたりする。

高田:歴史がずっと続いているんだよね。

鶴乃:怪談を扱っていてすごく思うのが、ほかの地域では明治で歴史がブツッと途絶えているところも少なくないんだよね。戦争で町が変わっちゃったとか。町が開発されて、昭和で町が変わったとか。でも弘前ってそういうことがないんだよね。明治大正昭和、現代までずっと歴史が続いている。だからみんなの愛着がものすごく深い。

高田:昔の人が見た山、雪を、俺らも見ているんだもんな。

鶴乃:昔の人が手を合わせたお寺で、俺らも手を合わせているとかね。

高田:そうそう。歴史をすごく感じる場所。

鉄爺:お祭りだってそうだよな。昔の人と同じように楽しんでる。

高田:現代的な生活に疲れた人は、ぜひ弘前においでください。

鶴乃:急にまとめに入ったな(笑)

黒岩:ありがとうございます!

 

◆取材を終えて

「怪談」と聞くと、「血みどろの人が追いかけてくる」とか「ドアがバンっと開く」など、人を驚かすような話が多いのかなと思っていたのですが、インタビューの中で気づいたのは、弘前の怪談は、昔話や民話、言い伝えや伝説なども怪談のひとつだということです。

私も子どもの頃は「夜遅く起きているとオバケがやってくるよ~」と言われて寝かしつけられたものですが、人々の生活と深くつながっているのが「怪談」の世界なのかもしれません。

これからも、弘前に怪談をいう文化を伝え続けていく弘前乃怪。
今後の活動にも注目していきたいと思います!