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弘南鉄道中央弘前駅 ストリートピアノに込めた思い

2021年4月、弘南鉄道大鰐線「中央弘前駅」にストリートピアノが設置されました。
ピアノの前板部分には、津軽塗による桜のデザインが施されています。
誰がどのような思いを込めてストリートピアノを設置したのか。
企画者である、Art Music AOMORI 代表の蝦名ミカコさんと、津軽塗を担当された塗師(ぬし)の木村崇宏さんに、ピアノに込めた思いを伺いました。

◆中央弘前駅に設置した経緯

Q.ピアノを設置しようと思ったのは、どうしてでしょうか?

(以下、蝦名さん) 私が幼いころに父に買ってもらったピアノの寄贈先を探していました。候補の一つが中央弘前駅。最初は、学校など教育関連施設に設置しては?という意見もありました。私は、多くの人の目にふれるストリートピアノとして、置きたかったんです。

 

Q.すぐに設置が決まったのですか?

実は、タイミングなども合わず、中央弘前駅には設置できなかったんです。今は青森市の「青森県観光物産館アスパム」にあります。それでも、弘南鉄道の担当者さんはとても興味を示してくださって。設置先を一緒に探してくれたりもしました。

 

Q.それでは、現在設置されているピアノは?

アスパムに寄贈したことを知った、弘前在住の音楽家ご夫婦から、ピアノを1台寄贈してもらえるという話があったんですよね。弘南鉄道さんに連絡して、やっと設置することが決まったんです。1回目は設置できなかったので、とてもうれしかったですね。

 

◆木村さんとの出会いは…

Q.ピアノに津軽塗を施した理由は?

弘南鉄道は学生も使う電車なので、若い人にも津軽塗を見てほしい。コロナが落ち着いて、観光客が戻って来たら海外からの観光客にも、もちろん地元の人にも、見たりさわったりして、身近なものに感じていただけたらなと思いまして。

 

Q.津軽塗の作業を担当した、木村さんとの出会いは?

きっかけはSNSを通じて知り合いました。もともとお互い津軽塗が好きで、津軽塗マニアの仲間みたいな感じ(笑)塗師としての活動も知っていたので、お願いしました。

▲津軽塗の錦塗という技法で桜が描かれている

 

◆デザインに込めた思い

Q.ピアノには、よく見る津軽塗とは違ったデザインが施されていますね?

津軽塗と言えば、唐塗(からぬり)が一般的。あえて津軽塗でも最も難しい技法とされている、錦塗(にしきぬり)でデザインすることをお願いしました。木村さんはすごい驚いていました。錦塗は書く作業も入ってくるので難しい。老若男女、たくさんの人に興味を持ってもらうために、地元の人でもあまり見慣れていない、錦塗でやることにしました。

 

Q.桜のデザインもとても印象的です

錦塗でやること、隠し絵のように桜のデザインを入れることは、私からお願いしました。木村さんはピアノ前板の中で、どう桜を配置すれば美しく見えるかを、紙の上で何度もシミュレーションしてくれて。より良いものを作ろうと、こだわり続ける姿勢はプロだなと。

多くの人に見てもらえるものを作りたい!という使命感みたいなものが、お互いに生まれていましたね。

 

▲桜の花びらと音符が舞っているように表現されている

◆弘南鉄道との縁

Q.蝦名さんのTwitterでは、弘南鉄道に関連する投稿も多いですね?

数年前に父が亡くなったのですが、遺品の中に現像前のフィルムがあったんです。気になって現像してみました。写っていたのは、桜が咲き誇る弘前城。私が生まれたのは春、桜の咲く季節。

知らなかったのですが、父は桜が咲くと、毎年のように写真を撮りに行っていたようなんです。

写真の中には、弘前市石川地区にある大仏公園の写真もありました。弘前城も大仏公園も、弘南鉄道大鰐線で行くことができる。大鰐線と私自身が、過去からすごい縁があるんだなって思いました。

だからこそ、多くの人に大鰐線の魅力を知ってもらいたいな。という気持ちでいます。

 

Q.ストリートピアノに託した蝦名さんの思いは?

駅に来れば、ピアノの音が聞こえてくる。誰かがいるかもしれないという、来るきっかけになってほしいと思います。特に学生さんが多い電車なので、もっと若い人が集まる駅になるとうれしいですね。

 

次に津軽塗を担当した木村さんにお話を伺いました。

木村さんは4年前、津軽塗に魅せられて東京から移住をしました。

 

▲津軽塗塗師の木村崇宏さん

 

◆津軽塗と木村さん、移住した覚悟

Q.津軽塗との出会いは?

(以下、木村さん)きっかけは本です。たまたま伝統工芸が載っている本を読みました。1ページ目が津軽塗。見た瞬間にひかれるものがありました。

 

Q.もともと漆塗りに興味があったんですか?

実はそうでもなくて(笑)
輪島塗とかは知っていましたが、それまでの漆塗りのイメージは、赤か黒のもの。津軽塗はさまざまな色を使っていて模様も斬新で、見たときに衝撃がありました。

直感的に自分で作りたい!という感覚になったんです。図画工作は苦手だったんですけどね(笑)

 

▲津軽塗制作中の木村さん

 

Q.木村さんは東京のご出身。津軽塗を学ぶために移住を?

津軽塗の修行をする方法が、ネットで調べてもなかなか出て来なくて。SNSを通じて、津軽塗後継者育成事業のことを知りました。塗師の後継者育成をする仕組みなんですが、応募条件の一つに、「弘前市に在住していること」がありました。
これは覚悟を持って、移住するしかないなと。

 

Q.スゴイ覚悟ですね?

そうですね。後継者育成事業の募集人員には枠があるので、移住しても修行できるかどうかわからない。なれなかったらどうしようという思いでした。運よく、研修生になることができて良かったです。

 

▲木村さんの津軽塗作品 右手前が七々子塗、その他は唐塗

◆蝦名さんから津軽塗の制作依頼が

Q.ピアノに津軽塗デザインをする依頼をいただいた時の気持ちは?

ピアノの前板という大きなサイズのものに、津軽塗をデザインするというワクワク感がありました。小さなサイズ感のものしか、手がけたことがなかったので。
しかも、中央弘前駅に設置するピアノ。移住してきて、多くの人に自分の手がけたものを見てもらえるうれしさも感じました。

 

Q.不安はありませんでしたか?

むしろ不安の方が大きかったですね。津軽塗の技法的に一番難しいとされている、錦塗での依頼。津軽塗の研修をはじめてから3年の自分に、それができるのか?という不安です。

 

Q.それまで錦塗の経験は?

全くないです(笑)
錦塗はいつかは挑戦したいと思っていました。高いチャレンジなんですが、ここで受けなかったら、自分自身の成長につながらない。大きなチャンスというのは、自分が準備万端の時には来ないもの。そう思って引き受けることにしたんです。

 

◆デザインのこだわり

Q.制作にあたり苦労した点は?

はじめての錦塗。どうやったらうまくいくかを何度も繰り返していました。自宅でテストしてうまくいっても、いざ作業をする工房でやるとうまくいかない。
気温や湿度、場所によって、漆の乾き方が変わってしまい、出来上がりも変わってしまうんですよね。

さらに苦労したのが、デザインの構図が決まらなかったこと。
桜のデザインも、大きな桜の配置はある程度決まりました。問題は小さな桜の配置。

どうやったら、桜がきれいに散っている感じに見えるのか。花びらが舞っている感じになるか。ピアノ前板の余白を、どううまく使うか。だいぶ時間を費やしました。

 

▲ピアノ前板の錦塗作業中の木村さん

 

 

◆新しいチャレンジがつまったストリートピアノ

Q.ストリートピアノに託した木村さんの思いは?

ストリートピアノが駅にあることで、何かが始まっていく。人が動いたり交わったり。ピアノがきっかけで、人と人とをつなぐものになってくれたら、うれしいですね。

ピアノの錦塗では、今までとは違う色遣いにするなど、新しいことにも挑戦しました。見ていただいた人に、津軽塗ってこういうデザインや、表現の仕方もあるんだ。そう感じていただけたらと思います。

◆編集後記

プロジェクトが動きはじめたのが、2020年10月。津軽塗制作は1年かけて行われました。
驚いたことはピアノが設置されるまで、全ての打ち合わせを、一度も直接会うことなく行ったということ。蝦名さんも木村さんも、1年以上も会うことがないまま、プロジェクトを進めたそうです。
初めましてのあいさつができたのは、ストリートピアノがお披露目されて、少したってからのこと。コロナ時代の、新しいプロジェクトの進め方だなと感じました。

制作者の思いがたくさんつまった、ストリートピアノ。
皆さんも、中央弘前駅にあるストリートピアノで、素敵なメロディーを奏でてみませんか?弘南鉄道に乗って、ピアノに会いに来てくださいね!

 

蝦名ミカコさんTwitter:https://twitter.com/mica10932

木村崇宏さんInstagram:https://www.instagram.com/makko.makkoo

弘南鉄道大鰐線中央弘前駅 〒036−8188 青森県弘前市吉野町1−6