2022年弘前ねぷたまつり/移住した私が「津軽情っ張り大太鼓」上乗りに初挑戦!
2022(令和4)年夏。3年ぶりに弘前ねぷたまつりが開催されました。
弘前ねぷたまつりは国の重要無形民俗文化財で、その囃子(はやし)は青森ねぶた祭と並んで環境省が選ぶ「残したい『日本の音風景100選』」に認定され、日本が誇る伝統的な音の一つ。「津軽情っ張り大太鼓(つがるじょっぱりおおだいこ)」は弘前ねぷたまつりの先頭で50年以上変わらぬ囃子の音色を響かせています。打ち手の一員として祭りに参加した体験記です。
◆津軽情っ張り大太鼓保存後援会との出会い
津軽情っ張り大太鼓とは江戸時代の逸話をもとに1970(昭和45)年4月20日に復元した直径3.3メートル、胴長3.6メートルの桶胴締め太鼓です。演奏は「津軽情っ張り大太鼓保存後援会」に入会しているメンバーが中心で行います。通常は進行方向の前面(まえっつら)と後面(うしろ)の上段に3人ずつ乗り、前面下は1人、後面下は3人を配置。10人の打ち手が同時に打てる大きさです。その重さは2トン。10数人で引っ張ります。2022年は新型コロナウイルス感染症対策のため編成を変更し、3人配置のところを2人としました。
私と津軽情っ張り大太鼓の出会いは2017(平成29)年の夏。初めて行った弘前ねぷたまつりで見た大太鼓の演奏は衝撃的でした。あの時の感動は今でも忘れることができません。胡弓(こきゅう)にも似た哀調を帯びた笛の音。体中に響く太鼓の音。長いバチを振り上げて打つ姿は問答無用の格好良さ。ひとめぼれです。帰宅してもドキドキは止まりません。まさしくひとめぼれでした。「いつか大太鼓を打ってみたい…」と憧れは募るばかり。県外から移住してきた私でも入れるのか不安でしたが、いてもたってもいられず弘前市の「津軽情っ張り大太鼓保存後援会」の門を叩き、入会することになりました。
「津軽情っ張り大太鼓保存後援会」には和太鼓を打つ「曲打ち部」があります。「曲打ち部」を経てしっかりと基礎を覚えてから大太鼓を打つ人が多いと聞き、まずは「曲打ち部」に入部。練習が週1回あり、先輩から指導を受けながら和太鼓の姿勢や曲を覚えます。楽譜を使用しない曲もあるため、なかなか覚えられずに苦戦しました。手にマメができ、息を切らしながらも徐々に打てるようになるのは本当に楽しいものです。
しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、2020年と2021年の弘前ねぷたまつりは中止。この2年は感染症予防のために練習もままなりませんでした。そして、2022年。弘前ねぷたまつりの開催が発表され、ついに私も津軽情っ張り大太鼓の上乗りの打ち手デビューが決定。カウントダウンが始まりました。
◆さあ練習だ!
大太鼓でのねぷた囃子の練習が始まるのは7月中旬。コロナ禍で中止となった2シーズンの空白があり、私にとって今夏が上乗り初挑戦。久しぶりに大太鼓に触れるとあってワクワクしながら練習へ向かいます。
練習は1クールおよそ1時間。40分通しで行い、20分の休憩をはさみます。40分間ずっと打ち続けるのは暑さもあいまって見た目よりも大変です。2シーズンの間の運動不足を如実に感じます。もう最初の10分だけでへろへろに。
太鼓の上で打つための重要なポイントは座る姿勢だとアドバイスをもらいます。先輩から座り方のコツを聞き、正座用座椅子や座布団、毛布で調整するのですが、なかなか決まりません。私の場合は座骨で座って骨盤を立てるポイントと外側の足の置き場を決めるのに苦労しました。
大太鼓の上乗りは打つことと同時に、美しく見える姿勢が重要。最初のポジショニングが運行そのものに関わるのです。練習中、疲れてくると腕の上がりや姿勢に現れるので都度指導が入ります。実際、先輩方は実に美しく、バチと腕がまっすぐでどこから見てもほれぼれする姿。長年培ってきた伝統と「じょっぱり」が感じられます。なんとか練習に参加したい。仕事の時間を調整し13日間の練習期間中、上乗り含めて7回参加することができました。
▲大太鼓の練習。なかなかまっすぐにバチをあげることができません
◆いよいよ祭り。「しっかりしなきゃ!」とプレッシャーでいっぱいに・・・
今年の天気予報は初日から4日間雨マークが並ぶ絶望的な天気。気をもみましたが、夕方になって雨があがる奇跡に恵まれ、無事に運行することができました。大太鼓の上の打ち手は前日、または当日に運行責任者から発表されます。不安と期待が入り混じります。
なんとなんと、初めての上乗りは8月2日、しかも前面でした。笛の音色が聞こえた瞬間に緊張で頭が真っ白になり気がつけば終わっていたように思います。4日は上で後面を担当。いざ、祭り本番となると、緊張感や会場の雰囲気はもちろん、練習にはない揺れが運行で加わるため、演奏の難易度はぐっと上がります。もうその場で教えを乞うことはできません。全体の音と、隣の打ち手の呼吸を感じながら一人で打ち切ることが必要です。
初めての上乗り。「うわ~!」と、ものすごい緊張とプレッシャー。感動を味わう余裕もどこへやら。太鼓の上に乗った瞬間、「私は本当にここにいて良いのか?」と思ったほどです。もう逃げ場はありません。そんな中、メンバーの皆さんに励まされてどうにか気持ちを立て直します。2日目は降雨のため途中で太鼓を降りましたが、4日目は最後まで打つことができました。
▲8月4日。運行前、大太鼓の後の上からの風景。続々来るねぷたの明かりが美しい
▲8月5日。大太鼓を会場まで人力で引っ張る姿は津軽の夏の風物詩
▲8月27日の弘前ねぷた300年祭往路 「休み」の正面の太鼓を打つのは子どもたち
曲打ち部には、小中高生が多く在籍しています。みんな、小学校低学年から始めたメンバーです。当初は人前に出るのを恥ずかしがっていても、数年たつとさすが、堂々たるものです。
▲前面の下の打ち手は花形で、大太鼓の正面に立ち一人で打ちます。見事なバチさばき
▲8月27日弘前ねぷた300年祭 復路待機中に青森ねぶたが来ました
◆夏を終えて
今年は3年ぶりの弘前ねぷたまつりに加え、弘前ねぷた300年祭というイベントも開催され、忘れられない夏となりました。開催する人。見に来る人。本当にたくさんの人の関わりがあってこそですね。
大太鼓に憧れて入会し、コロナ禍や練習の中で挫折しかけたことは何度もありましたが、伝統ある弘前ねぷたまつりの大太鼓に参加できたことは、太鼓好きな私には最高の誉れです。初めての上乗りの打ち手としては、私はただただ必死で、打ちながら何をどうするとかのゆとりも持つことができませんでした。改善すべき課題がいくつもあります。来季にむけて頑張らなきゃ、と気持ちを新たにしています。
もし、この記事を読んで大太鼓や和太鼓に興味がわいたなら、ぜひ弘前観光コンベンション協会(※)へ問い合わせをお願いします。
来年もけっぱります!一緒にじゃわめぎませんか?
※津軽情っ張り大太鼓保存後援会
(公益社団法人 弘前観光コンベンション協会内)
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