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剪定作業の先に見える一面の桜

◆全国から学びにくる桜の剪定

日本一の桜と名高い弘前公園。植物園を含む敷地面積は、49万2000平方メートルです。ここにはソメイヨシノを中心に約52種類およそ2600本の桜の木があります。2月下旬、弘前公園の桜の剪定(せんてい)作業が始まりました。

▲剪定作業を終えてまもない桜の木と下乗橋・弘前城天守

◆りんご栽培の技術が生きている

「桜切るばか梅切らぬばか」ということわざがあります。しかし、弘前には、明治以来りんご栽培で培った知識や技術の積み重ねがありました。今から60年ほど前、明治時代に植えられた桜が一般的な寿命である60年を超え、衰えが目立ち始めていました。弘前公園の桜の管理をしていた弘前市公園管理事務所の職員の中には、「桜の木はりんごと同じバラ科の植物だから、剪定をして手入れをすると木が元気になる」ということを知っている人がいて、衰えてきていた桜の枝を剪定したのです。最初のうちは市民から怒られたこともあったようですが、弱った桜の木がきれいな花を再び咲かせるのを見て、誰もが認めるようになりました。りんごの木の手入れと同様に、花が終わると肥料をあげ、虫や病気から守るため薬をかけて管理。毎年見事な花を咲かせる弘前公園の桜を見て、剪定方法を学びたい人が、全国の桜の名所から訪れるようになりました。

▲外堀での剪定作業の様子

のちに「弘前方式」と呼ばれるようになりましたが、1973年には「剪定した切り口から病原菌が入る」と大学の教授が話したことから、剪定の是非に話が変わっていき、市議会やマスコミでも大きく取り上げられる桜論争が起きたこともありました。現在は、剪定をした切り口に癒合剤を塗り病気の侵入を防ぐことが一般的になりましたが、当時はまだ普及していませんでした。桜論争をきっかけに、新しい苗木の育成や、適正な樹間の研究など、学術的な理論と、現場の経験を一致させていく積み重ねにつながり、桜の管理のためには専門の人材が必要であると弘前市は考えるようになりました。


▲剪定した切り口に塗る墨汁を混ぜた癒合剤

この管理方法を継承したのが、樹木医の小林勝さんです。小林さんの退職が近づいた2014年、弘前市は培ったノウハウを後世に伝えていくことを決め、新たな樹木医1人(橋場真紀子さん)の採用と、その後樹木医となる職員1人(海老名雄次さん)の配置換えを行い、樹木医3人と現場職員約40人で構成するチーム桜守(さくらもり)という新たな体制を作りました。


▲チーム桜守の樹木医たち 左から小林さん、海老名さん、橋場さん

◆3年後を見すえての剪定作業

桜の木の剪定は毎年2月下旬から3月末まで、作業を行います。剪定作業をする目的は、

①枯れた枝や病気の枝を落とす
②風通しや日当たりを良くして元気にさせる
③老化した枝を切り落とし、若い枝を伸ばす切り戻しを行う

の3点です。先頭に立つのは、チーム桜守。職員の中には20年以上の経験のあるベテランも含まれています。

剪定作業にあたっては、どの枝を切り、どの枝を残すのか判断ができるように毎年事前に講習を開催。また、剪定作業の現場でも話し合いながら進めていきます。花芽が先の方に少しだけ付いていても、柔らかく張りのない枝は長くはもちません。桜守たちは今年だけでなく、3年後の枝ぶりを考えながら剪定の判断をしています。

▲剪定作業を行っている様子

剪定した枝には花芽がついたものもあるので毎年、市民に無料配布していました。大変な人気で、配布する日の朝早くから並び始め、配布を開始する時間には150人を超える市民が並ぶこともありました。(コロナ禍の今は、代わりの方法も見つからず、無料配布は行われていません)

▲剪定を終えた枝を持つ海老名さん

◆あって当たり前のさくらまつり

弘前公園では、1916年の夜桜見物から始まり、1918年には第1回の観桜会(地元では「かんごかい」と言う)を開催。その後も戦時中の中断をのぞき、毎年さくらまつりを行い、2020年は100回目のさくらまつりの年でしたが、公園の閉鎖によって幻のまつりとなりました。

市公園緑地課では、さくらまつりの期間、開花情報を毎日発表しています。例年は大勢の人が桜の周りにいるため、撮れなかった開花状況の写真も、2020年は容易に撮ることができました。桜はいつものように見事に咲き誇っています。でも、何かが違いました。「自分たち職員は閉鎖された公園の中にいて桜を見ることができる。でも、楽しくないんです。聴こえるのは鳥の声だけ。さみしかった」と海老名さん。

子どもの頃から当たり前のように見てきたさくらまつりは、大勢の人が公園に来て花の下を歩いている。屋台の食べものの匂いや、人々の歓声があってこそのさくらまつりだった。「自分にとっては、あって当たり前の景色だったことに気付かされた」と、海老名さんは話します。

▲満開の中堀の桜

◆いつもと同じ春を迎えられますように

2021年は、101回目のさくらまつりが開催されます。約1カ月の剪定作業を終えると、園内の橋の欄干の朱塗作業が始まります。そして、公園の中や周囲にさくらまつりのぼんぼりが並ぶ4月下旬、今年の桜が開花します。チーム桜守と現場の職員が剪定していた美しい一面の桜が、今年も見事に咲くに違いありません。

▲下乗橋あたりの満開の桜・弘前市公園緑地課提供

※チーム桜守を紹介している動画もご覧ください。