わたしの土手町シリーズ⑬ 父の思い出の店「入五関酒店」
父の昔話を聞いた。
開雲堂の左隣(西側)、入五関酒店(いりごせきさけてん)という酒類小売店があった。
20代の頃の父が、農家の仕事が少ない冬場に、アルバイトに通っていたそうだ。
正月のお酒の配達に、自転車で当時の特級酒の2升を、配達先の玄関前まで持ち込んだが、ツルッと滑って2本とも割ってしまった。
ごめんなさい、ごめんなさい、玄関で平身低頭謝った。
そうしたら、配達先の奥さんが、「体は大丈夫か?」と、お酒のことは何も言わず、お酒の代金を持たせて帰してくれたそうだ。
店に帰って女将さんに話すと、「いいの、若い人は時々転ぶのだから、仕方ないよ」と意に介さず、慰めてくれたのだという。
当然すぐに代わりのお酒を届けたが、お客さんも店も、なんともおおらかな時代の話である。
そんな逸話など知らなかった筆者だが、成人して何度か、入五関酒店に日本酒を買いに行ったことがあり、父をアルバイトで雇っていた大女将に、父の様子をたずねられたものである。
古い酒屋の暗い天井や、壁際にずらりと並んだ日本酒の一升瓶の景色を思い出す。
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