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450年以上続くともしびを伝えたい~沢田ろうそくまつりにみる継承と地域課題

弘前市相馬の沢田地区に伝わる「沢田ろうそくまつり」がコロナ禍を乗り越えて4年ぶりに規模を縮小して開催しました。外から集客をせずに、伝統行事としての開催に絞った理由や経緯について、開催日となった2月24日に祭りに実際に参加し、主催者からお話を聞いてみました。

 

◆沢田ろうそくまつりとは?

弘前市相馬(旧相馬村)、沢田地区の沢田神明宮に伝わる祭で、壇ノ浦で滅んだ平家の霊を供養したことが始まりと伝えられている。旧暦の小正月に岩屋堂にろうそくを立てて五穀豊穣、家内安全などを祈り、翌朝にろうの垂れ方や形状を見て豊凶を占う神事は450年前から受け継がれてきた。

沢田地区は弘前駅から車で約40分。隣の集落から2キロほど林道を進んだ山間にあり、秘境の隠れ里のような雰囲気を持っている。集落の山肌に突き出ている巨大な岩の下にある空間は岩屋堂と呼ばれ、神聖な場所として大切にされている。

▲山肌に黒々とそびえる大きな岩。右側のひときわ大きな岩のふもとに神社がある

 

◆過疎化がもたらす伝統継承の危機とは

もともと沢田地区の人口は少なく、祭りの存続が危ぶまれていた。祭りを盛り上げるために平成21年に実行委員会を結成。内容やPR方法を工夫し、多い時で2000人もの参拝者でにぎわう祭りとなるが、コロナ禍で令和2年から中止となっていた。

開催前に祭り実行委員会事務局長の三上雄一さんに話を聞いた。三上さんは実行委員会を立ち上げた頃から祭りをけん引してきたメンバーでもある。4年ぶりの再開には特別な思いがあるという。

相坂:4年ぶりに開催するうえで、これまでとかわったことはありますか?

―――近年、沢田地区の過疎化が進み、今では6戸18人が住むのみとなりました。そのうち4戸は高齢独居者です。いよいよ祭りの維持が地域住民だけでは困難となっています。相馬全体でも人手不足は深刻です。諸事情もあり、これまで通りの再開は間に合わないと判断し今回は奉納行事のみとしました。

 

相坂:今年の開催にあたり、一番大切にしたいと感じていることを教えてください。

―――なによりも伝統ある祭りを途絶えさせることなく、次代の子どもたちに伝えることが自分の使命だと思っています。祭りを通して地域全体の繋がりを広げ、盛り上げていくために祭りを存続できるよう今年は引継ぎをしっかり行い、来年に繋いでいきたい。幸いにも地域おこし協力隊含め、意欲ある皆さんが少しずつ集まっていると思います。

 

◆祭り当日に朝から密着!

取材を進めるうちにボランティアの募集もあると知り参加した。朝10時からの打ち合わせを経て総勢21人で作業を進め、実行委員長の三上昇さんの指揮のもと、参道の雪を踏み固めていく。昼食はおにぎりと豚汁、沢田地区のばっちゃ(津軽弁でおばあさんの意味)の餅がふるまわれた。午後は皆でバケツと塩ビ管を使った雪燈籠作りに汗をかいた。

▲沢田ろうそくまつり実行委員長・三上昇さん。祭りと地域への思いは熱い
(写真提供:相馬地区地域おこし協力隊 加賀 新一郎)

▲沢田のばっちゃたちの作る餅はあんこ入り。毎年すぐに売り切れてしまうのだとか

▲参道作り。階段状に踏み固めて足場を作っていく。今年は積雪量が驚異的に少ないという

▲参道を照らす雪燈籠

 

◆祭りの風景

日没後、参道に明かりがともされると合図になるのだろうか、誰ともなくろうそくを奉納しにいく。例年、祭りには開会宣言があるのだが今年は省略した。青く静かに暮れていく神社は不思議な雰囲気に包まれる。

▲鳥居正面から

▲祈りとともにろうそくの明かりで満たされていく岩屋堂

▲かがり火を囲んで演奏する登山囃子で盛り上がる

辺りが暗くなる頃には準備していたろうそく70本は全てなくなった。参拝客はかがり火を囲んで暖をとり、ふるまわれたマタギ鍋を味わったり登山囃子の奉納演奏を聞きながら祭りの雰囲気を存分に味わっているようだった。

▲マタギ鍋。煮込まれた熊肉はホロホロで何杯でもたべられそう

 

◆祭りが明けて

翌朝、再度訪問し岩屋堂に入って驚いた。ろうそくの多くが消えずにともり続けていた。後の取材で三上事務局長に聞いてみたところ、「こんなことは初めて。ほぼ風が無かったことが火が消えなかった原因ではないでしょうか。いつもなら朝までに燃え尽きるはずですが・・」と不思議がっていた。

▲いつもと同じ大きさのろうそくだが今年は朝までともり続けていた

 

◆取材を終えて

今年はろうそくの奉納だけ、という祭り本来の形に近い状態が見られたことは私にはとても幸運だった。初めて見たが素晴らしいお祭りであったように思う。
「今後、支え手を増やしていければ、来年はきっと本開催として復活できると期待しています。ぜひ、また来てください」という三上事務局長の声は明るい。
来年はどんな祭りになるのだろう。私も見に行きたい。皆さんもぜひ、沢田ろうそくまつりを体感してはいかがだろうか。

※岩屋堂の表記は諸説ありますが、「相馬村誌」の記載に準拠しました。


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