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五穀豊穣を願い地域活性を作る「お山参詣」!十面沢(とつらざわ)「お山の会」

◆岩木山お山参詣の魅力

津軽地方の「お山参詣」をご存じでしょうか? 「お山」というのは、津軽地方のどこからでも眺めることができる岩木山のことで、津軽の人々に愛され山岳信仰のご神体にもなっています。旧暦8月1日には、岩木山麓の地域の人々が「五穀豊穣」「家内安全」などを願って、集団登拝する行事が江戸時代から続いているのです。

鐘・笛・太鼓の囃子(はやし)とともに、2~3メートルほどの長さの金色の稲穂に似せた御幣(ごへい)や色とりどりの幟(はた)を持ち、岩木山に向かう白装束姿の行列は神聖な儀式のようで、ねぷたまつりのように「見たい・参加したい」を簡単に言ってはいけないと子どもの頃から思っていました。

さらに、囃子にあわせて口ずさむ「サイギサイギ、ロッコンサイギ」には次のような意味があります。サイギサイギ(懺悔懺悔)とは、過去の罪過を悔い改め神仏に告げ謝す・ロッコンサイギ(六根懺悔)とは目・耳・鼻・舌・身・意の六根の迷いを捨て汚れの無い身になる、です。(「岩木山観光協会HP」参照)不思議な言葉を使う津軽のスピリチュアルな世界なのか、とさらに近づきがたい風習なのでは、と感じていました。今回は、「お山参詣」の本当の姿を確認するために取材しました。

▲地区を練り歩く様子。初参加者は赤いはちまき。2回以上の参加者は黄色いはちまき

▲縦一列になって御幣、幟、お囃子が続きます

 

◆十面沢(とつらざわ)の「お山参詣」と「お山の会」

十面沢地区は弘前市の西側にあり、弘前の中心街、鯵ケ沢海岸、五所川原市にも約30分で行ける所に位置しています。十面沢の「お山参詣」は、平成3年から「お山の会」が運営を行ってきました。現在の「お山の会」のメンバーは令和元年に代表となった工藤嵩大さんを中心とした20~40代の10人と数名の50代の先輩たち。「お山参詣」への参加のほか、地区のさまざまなイベントを企画実行しています。

「お山参詣」で用いる御幣や幟などは、仕事を終えたメンバーがすべて製作していますが、その様子は学園祭の準備をしているように和気あいあいと楽しそう。しかし、見学に来た先輩がひとたび「子どもの持つ幟なら、もっと軽くしてやらないと。もっと細い竿にしないと」と助言すると空気はピリッと引き締まり、メンバーたちは黙々と作業のやり直しを行います。メンバーの仲の良さ、先輩に対する信頼感と後輩や地域の人への深い愛情が、「お山の会」が「お山参詣」を継続してきた由縁でしょうか。

一方で、「お山の会」は子どもたちに自分たちの伝統芸能を伝える活動もしています。学校の協力が得られた時には子どもたちと一緒に幟を製作したり、お祭りに使う鐘を展示して子どもたちの目に触れる取り組みを継続しています。小学校には十面沢と十腰内(とこしない)地区の子どもたちが通っているため、幟の製作を通して2つの地区の交流が深まるという楽しみが増えた、と「お山の会」の佐藤良さんは話しています。

▲小学生と「お山の会」のメンバー

▲幟の大きさがわかるでしょう

 

◆十面沢のエネルギーがほとばしる「お山参詣」

今まで「お山参詣」は、祈願するための静かな風習と思っていましたが、実はとてもエネルギッシュなお祭りでした。「お山参詣」を無事に成功させるため、その地域に関わりのある老若男女すべての人々が、一丸となって取り組むとても熱量の高い風習なのです。今回の十面沢の「お山参詣」にも、地区の人のほかに親戚・弘前大学の囃子組(はやしぐみ)サークル・私のような市や県内外の参加希望者が多数参加しており、その人たちみんなで「お山参詣」を盛り上げていくのです。今年は100人ほどが参加していました。

まずは朝7時頃に集合して十面沢地区を練り歩き、中学校の校庭で小中学生や地域の人々に、御幣や幟を披露した後、岩木山神社に向かいます。

▲裾野中学校の校庭で、裾野小・中学生が見守る中、幟をお披露目

岩木山神社に登拝する順番が来るまで休憩時間となりますが、しばらくすると、小さな子どもたちは手作りの鐘を手に、見よう見まねで覚えた囃子を演奏し始めます。すると三々五々人が集まり、大先輩が唱い踊り、若者達も加わって踊りが展開され、さらにお囃子の笛や鐘や太鼓の演奏が重なり、みんなの身も心も「じゃわめき(津軽弁で「からだじゅうがざわざわして、いてもたってもいられなくなるような高揚感」の意味)」いよいよ行列になって岩木山神社に向かうのです。

▲お手製の灰皿でできた鐘を上手に扱う子どもたち。見よう見まねで覚えたそう

「お山参詣」は祈願するだけの風習ではなく、人々の心を一つにまとめ、さらに何かが化学反応のように伝えて、人々の中に眠っていた新しい力を引き出すイベントでした。初めて幟を持つ青年や子どもには自信や勇気を、初めて会った仲間には笑顔と思いやりを・・不思議な魔法をもつ風習です。

初参加の私が持った御幣は、あいにくの雨のため穂が風になびかず、むしろ重くなっていたはずですが、御幣を岩木山神社に奉納するまで重いとは感じませんでした。翌日はやはり筋肉痛となりました。でも、それ以上に響いていたのは、多くの人々が同じ目的のため、気持ちを合わせて取り組む爽快感でした。

▲岩木山神社の鳥居の前に集合した五色幟。雨に濡れて旗はじっとりと重くなっています

▲幟を倒さないように、鳥居をくぐらせるところが、持ち手の力と技の見せ所

 

◆伝統文化も地域も、人が作りつなげてゆくもの

「お山参詣」は江戸時代から津軽地方で受け継がれてきた地域の伝統文化ですが、それは漫然とではなく、その時々の人々の願いや熱意によって維持されてきたのだと思います。地域の有り様も同じはず。 「地方は人付き合いが濃い・地方は助け合って生活している」。そんな言葉をよく聞きます。地方だろうが都会だろうが、そこに住んでいる人が、どのような生活がしたいか・どのような地域になりたいか、の意思と熱意と努力によって作られているのです。十面沢の「お山参詣」はその象徴でしたし、十面沢地区はパワースポットかもしれません。私が子どもの頃、「お山参詣」に抱いていたちょっと不思議な風習は、参加してみて今回みごとに裏切られました。みんなを結びつけ、みんなを元気にし、一歩前に進ませてくれるお祭りでした。来年は十面沢の「お山参詣」に参加して、あなたの中にある新しい力を引き出してみませんか?参加を希望なさる方は「お山の会」(ge_tare_do@docomo.ne.jp)にご連絡ください。


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