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「この国の片隅で」

あまり知られていませんが、実は弘前、多くの市民後見人が活動している地域で全国をリードしています。

2020年4月現在、青森県によると県内では、20人の市民後見人が活動しています。弘前で活動しているのは、半数以上の12人。なぜ弘前が断トツに多いのでしょうか。理由を探ろうと、関係者に聞きました。

1人目:弘前圏域権利擁護支援センターの相談員・藤田博美さん

▲支援センターの藤田さん

―成年後見制度について、教えてください。

藤田さん 成年後見制度は、認知症や障がいにより判断能力が十分でない人(被後見人等)に代わって、家庭裁判所が選任した後見人等が、財産の管理と、施設やサービスの契約をすることができる、2000年から始まった制度です。

―どのような人が、後見人等になるのですか?

藤田さん 法人での受任もありますが、多くが個人で受任されています。個人も大きく3つに分けられ、被後見人等の親族の場合と、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職の場合、親族以外の市民がなる市民後見人の場合です。

―市民後見人が、成年後見人等に占める割合は、どれくらいでしょうか?

藤田さん 全国で、親族をのぞいた第三者後見人等の1%にすぎません。高齢化で、成年後見制度の利用増が見込まれるため、新たな担い手として市民後見人を養成していますが、利用数は伸び悩んでいます。

―青森県内の状況は、いかがでしょうか?

藤田さん 県内各地で市民後見人養成研修が開催されていますが、受任に結び付いていません。2020年、県内では研修を修了した登録者が169人いるにもかかわらず、受任しているのはわずか20人だけです。

―弘前では、どんな取り組みがされてきたのでしょうか?

藤田さん 2013年に、弘前市成年後見支援センター(現・弘前圏域権利擁護支援センター)が開設されました。2018年でも中核機関を整備している自治体は、4.5%にすぎないことを考えれば、かなり早かったと言えるでしょう。2014年から、ほぼ毎年3人ずつ、支援センターのサポートを受けながら、市民後見人が誕生しています。
2017年には、権利擁護支援ネットワークのフォーラムが弘前市で開かれました。全国規模のこのような催しが、本州の端の中小都市で開催される事も、異例だったと思います。それからは、各地から支援センターに、視察や講演、原稿の依頼などが寄せられています。

▲黒石市で行われた成年後見制度普及・啓発講座

―早くから弘前で市民後見人が次々と誕生したのは、なぜだと思いますか?

藤田さん 支援センターと、弘前市成年後見支援協議会の果たした役割が大きかったのではないでしょうか。関係機関の情報共有や、いろいろな課題の検討などのために、医師をはじめ、弁護士や司法書士などの司法関係者、高齢者施設や社会福祉協議会などの福祉関係者に、オブザーバーとして家庭裁判所も参加して、市民後見人の活動状況などを協議してきました。これによって、各機関との風通しがよくなり、スムーズな受任調整や、被後見人に何かあったときの素早い対応ができるなど、市民後見人が安心して活動できる環境が整えられたと考えています。
また、弘前には、弘前が大好きな人が多いので、地元の人が地元を支える制度が受け入れられたのでしょう。

―その一翼をセンターが担っているわけですね

藤田さん センターは、申し立ての支援や講座の開催、相談に応じています。市民後見人関係では、養成研修を行政と企画して実施したり、研修修了者の登録、受任調整、後見人受任者へのフォローなどの全般を担当しています。

―市民後見人の活動はいかがですか?

藤田さん フットワークの軽さや、視点に教えられることが多いです。被後見人との関係づくりに頻繁に面会したり、どんな小さなところからでも情報を得たいため着衣などの状況からも推察したりしています。職業としている専門職に比べて、市民後見人のみなさんは、家族として接している印象でしょうか。

―弘前の市民後見人は、どんな人が受任しているのですか?

藤田さん 職業を持っている方、第一線からは退いた方などさまざまです。共通しているのは、地域のためにと使命感を持っていることです。

―最後にひと言、お願いします

藤田さん 弘前では、手を差し伸べたい人が、かかわれる仕組みが整っています。また、利用することで、生き生きと暮らせる人がきっといます。関心のある方は、お問い合わせいただければうれしいです。

2人目:市民後見人として活動している伊藤健さん

▲癒やされる笑顔の伊藤さん

―どんなきっかけで市民後見人になったのでしょうか?

伊藤さん 市民後見人養成研修開催の新聞記事を見たのが始まりです。

―元々、福祉関係のお仕事だったのですか?

伊藤さん いいえ、私は自宅で釣具店を営んでいました。

―なぜ、全く別のことに挑戦しようと思いましたか?

伊藤さん がんからの生還があったからです。がんセンターに入院中、臨床心理士などのサポート体制に、とても助けられました。せっかく生かされたのだから、社会の役に立つことをしたい、助ける方に回りたいと考えていました。

―実際に市民後見人の活動をしてみて、いかがですか?

伊藤さん 重責ですが、楽しんでいます。被後見人に顔を覚えてもらい、信頼関係が築けると、お互いに面会が待ち遠しくなります。
バックアップ体制もしっかりしているので、安心して活動できます。私が体調を崩した時は、全て支援センターの方に代行してもらいました。月一回の定例会では、他の市民後見人と意見や情報を交換して、学びあっています。定期的にフォローアップ研修が行われ、コロナ禍前は県外に研修に行ったこともありました。弘前での全国フォーラムに出席しましたが、他の地域の活動状況を聞くと、弘前は全国で一番進んでいる、素晴らしい体制が整っていると確信しました。

―これからの抱負を、お願いします

伊藤さん 私は、市民後見人の活動から生きがいをもらいました。この出会いに、感謝です。これからも、みなさんの意見を聞いて、お互いに切磋琢磨していきます。そして、市民後見人に興味を持つ人が増えてほしいです。

地域を支える仕組み作りに、社会の役に立ちたい気持ちが、うまく重なって、弘前を市民後見人先進地に押し上げました。支えてもらう被後見人や、まわりの方が安心できることはもちろん、市民後見人自身も活躍の場を確保でき、お互いに支えあう制度ともいえるでしょう。知れば知るほど老後の安心のためには、不可欠です。本州の最北、青森県の人口第三都市が、全国の先端を走っていることは、とても誇らしいです。